高岡コロッケ物語

高岡コロッケ物語(66)

第6部・昼も夜も(6)
鶏肉専門店 駄菓子屋感覚、庶民の味

 毎日揚げる約二百個のコロッケを、客が競い合うように買い求めていく。高岡市姫野の「沢田鶏肉専門店」は鶏肉が主体の店だが、鶏の空揚げや手羽先に負けないくらいにコロッケが人気を呼んでいる。
 店を切り盛りするのは沢田實さん(66)、南海江さん(64)夫婦と長男一海さん(44)の三人である。もともとは射水市(旧新湊市)に一九六八(昭和四十三)年に普通の精肉店として開業したが、鶏肉を売りにした店を設けたいとして、七三年に現在の場所にも店を構えた。

昔ながらのコロッケを販売する沢田鶏肉専門店

●「秘伝の油」
 コロッケは豚と牛の合い挽(び)きが入り、昔ながらの味で揚げる油にこだわっているのが特徴だ。「秘伝の油」のおかげで冷めても固くならない。冬場も学校帰りの高校生らが足しげく通い、店の前を走る国道415号沿いを食べ歩きする姿を見かける。
 店では午前九時の開店とともに、注文の電話が相次ぐ。予約制は採っていないものの、事前に注文しておかないと手に入らないことがあるからだ。午前中に夕食用の分を買いに来る人もいるほどで、常連の六十代女性は「この店のコロッケを食べたら、ほかの店のものは食べられない」と味に太鼓判を押す。
 一海さんは千葉県で食肉の技術を勉強した際、日本より厳しいフランスの食肉管理を学んだ。鶏肉の一般的な流通システムでは衛生面の検査を三度行うが、同店ではさらに二度にわたる検査を実施しており、安全性に絶対の自信を持っている。一海さんは「安全を追求することは手間もお金もかかるが、お客さんの信頼につながるのことが何より」と話す。
 人気の味は京都の大学生も満足させた。今年四月、六人グループが高岡市をコロッケの食べ歩きに訪れた。学生は高岡コロッケ実行委員会が作成した地図を片手に沢田鶏肉専門店にも立ち寄り、「子どものころに食べた懐かしい味。もう一個、揚げて」と三個、四個とほお張った。

油にこだわって仕上げたコロッケを並べる一海さん(右)と南海江さん=高岡市姫野の沢田鶏肉専門店

●「楽しさ」を追求
 「コロッケは駄菓子感覚の料理であるべきだ」というのが一海さんの持論だ。高級レストランの一品料理とは趣を異にし、酒のつまみにしたり、学校の帰り道にちょっと買って帰るようなことがコロッケの楽しさというのである。沢田精肉店のように庶民の味を追求することが、高岡コロッケのファンを着実に増やしていく。

第6部・掲載リストに戻る

エピソードトップへ