高岡コロッケ物語

高岡コロッケ物語(62)

第6部・昼も夜も(2)
福岡駅前 新市融合の橋渡しに

 高岡市のJR福岡駅前に高岡コロッケののぼり旗がはためいている。福岡町下蓑の「お食事処中藤(なかとう)」はめん類やどんぶり、定食が中心の食堂だが、人気メニューとなっているのが「中藤コロッケ」だ。ラーメンとご飯に加えてコロッケを注文するサラリーマンや、夕食の総菜に持ち帰る主婦もいて固定ファンを獲得している。

JR福岡駅前周辺。高岡コロッケののぼり旗がはためく

●懐かしの味再現
 店にコロッケが登場したのは十五、六年前のことである。厨房を取り仕切る中島秀恭さん(38)が自身の好きなコロッケをおつまみとして出したいと思ったのがきっかけだった。小学校の帰り道に精肉店で買って食べた懐かしい味を再現したいと、具材はジャガイモと玉ネギ、牛ひき肉とシンプルにした。塩としょうゆ、香辛料などで味付けし、純正ラードのほか三種類をブレンドした油で揚げてさっくりとした触感に仕上がっている。
 中島さんは四代目で、戦前に曾祖父の喜作さんが福岡駅の乗り場近くでおかゆを振る舞う店を開いたのが始まりだ。以来、駅のそばという立地を生かして商売を続けてきた。自動車の普及で電車の利用者が減少するなか、駅前を離れてほかの場所で商売をした方がもうかるのではないかと思うこともあったが、福岡町で伝統ある「つくりもんまつり」や獅子舞などを通して結ばれた住民同士のきずなが中島さんをとどまらせている。

JR福岡駅前の店でコロッケを提供する中島さん=高岡市福岡町下蓑

●常に揚げたて
 作り置きはせず、常に揚げたてを提供するのが中島さんのこだわりだ。土、日曜日はスポーツの大会を終えた住民の打ち上げ会場となり、スポーツ愛好家らが冷たい生ビールでのどを潤し、コロッケをほお張る姿が見られる。お客は福岡町に住む人が多いが、高岡コロッケのキャンペーンに参加してからは、観光客や駅を利用する高校生の姿が見られるようになった。
 中島さんは五月まで福岡町商工会青年部部長を務め、現在は高岡市福岡町審議会委員である。二〇〇五(平成十七)年の高岡市との合併に商工会としてかかわった経験から新市の一体化を気にかけてきた。コロッケによるまちおこしに賛同して「高岡コロッケ」ののぼり旗を掲げたのは、旧福岡町民と旧高岡市民の「心の合併」が進んでほしいとの願いからだった。コロッケの輪の広がりで中島さんの願いは少しずつ実り出している。

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