高岡コロッケ物語

高岡コロッケ物語(49)

第4部・地域まるごと(9)
鶏卵 高級感も新しい個性に

 十個入りパックで三百円以上する「高級卵」が食品スーパーで売れている。えさや育成方法にこだわっているのが特徴で、かつては料亭やレストランで使われるだけだったが、健康志向や食の安全に対する関心の高まりで、一般家庭でも食べられるようになった。多少値段が高くても人気を集めている点では、サーロインステーキやズワイガニなど具材にこだわったコロッケと重なるものがある。
 こだわりの卵を生産する業者の一つである仁光園(高岡市)では、創業した昭和二十年代こそ農家向けに鶏のひなを出荷していたが、一九七五年から鶏卵の生産に特化した。当初は病院や学校給食、大手マヨネーズメーカーへの納入が中心だったが、九六年からは食品スーパーでの小売りにも乗り出した。

育成法にこだわった卵。値段は高いが人気を集めている=高岡市十二町島の仁光園

●鶏の健康に気配る
 社長の島哲雄さん(65)は「大量生産を考えた時期もあったが、調べれば調べるほど鶏卵の安全性を脅かす気がした。食の安全が求められる時代が必ず到来すると判断した」と振り返る。
 鶏卵の専門業者としては後発だけに、同社は鶏の育成方法で鶏卵の個性を打ち出すことにした。小矢部市宮島峡の奥に鶏舎を設け、外部から細菌が入らないように隔離した。えさも普及品より二割以上高価な物を与える。何段にも積み重ねる例が多い鶏を納めるケージ(かご)は、衛生や病気予防の観点から二段以上は積み上げず、鶏の健康に気を配っている。
 島さんによると、鶏も人間と同じく性格は千差万別だ。前の方でえさを強引に食べる鶏もいれば、後ろの方で遠慮しながらえさをつつく鶏もいる。「弱い鶏もいれば、強い鶏もいる。できるだけ心身ともに健康で、伸び伸びとした状態で産む卵でないと、安心、安全とはいえない」。島さんの信念であり、自信でもある。

●1日に8万4千個
 仁光園の鶏卵は順調に売り上げを伸ばし、県東部や金沢市内のスーパーにも並ぶようになった。現在は約十万羽を育成し、一日当たり約八万四千個を富山、石川県内の小売店やマヨネーズメーカーなどに出荷している。島さんは「値段は少し高いが、品質の良い品を求める消費者からは、納得して買っていただけると信じている」と話す。
 コロッケは庶民の食べ物のイメージが強いが、洋食屋に初めて登場したころは高級料理だったという歴史もある。こだわりの卵が、値段が高くても受け入れられるように、高級感を取り入れていくことも高岡コロッケのブランド化につながっていくはずだ。

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