高岡コロッケ物語

高岡コロッケ物語(45)

第4部・地域まるごと(5)
稲葉牛 「幻の肉」から脱皮へ

稲葉牛を扱う特設コーナーが設けられた「大歳の市」=昨年12月、小矢部市今石動町2丁目のJAいなば経済センター

●出荷から5年目
 昨年十一月、小矢部市のクロスランドおやべで開かれた同市農業祭で、パック肉の「稲葉牛」が初めて並んだ。約二時間で売り切れる人気に、生産する稲葉山牧場の関係者は手応えを感じ取った。稲葉牛は市場に出荷を始めて五年目に過ぎない。新参だが、富山を代表する食のブランドに育てたいとする思いは「高岡コロッケ」と軌を一つにしている。
 稲葉山牧場が肉牛生産に取り組んだのは牧場の経営と密接にかかわる。牧場は乳牛の受託事業のために一九六七(昭和四十二)年に開設され、県内の酪農家から乳牛を預かってきた。公益事業であるため、ある程度の赤字はやむを得ないものの、酪農農家が減少する中で、収益性を上げる必要に迫られ、付加価値の高い肉牛を生産することにしたのである。牧場では二〇〇〇年度から三年間かけて育成用と肥育用の牛舎を設け、生産に取り組んだ。
 成果は意外に早く現われた。〇三年度から競りに出したところ、五を最高値とする評価ランクの中で、常に三、四の評価を得たのである。場長の渡辺忠男さん(52)は「松阪牛や氷見牛と比べても、恥ずかしくない品質だ」と自信を深めている。
 課題は流通量の拡大である。競りには「稲葉牛」の名で出しているが、一度に二、三頭しか出荷できない。買い付けた卸業者は県内他産地の肉牛と合わせ、「富山牛」として小売店に卸さざるを得ない状況である。
 小矢部市農林課長補佐の佐野隆さん(51)は「高値で取り引きされるものの、出荷量が少ないので幻の肉とさえ言われている」と話す。昨年度に三十頭だった出荷頭数は、今年度は四十五頭に増える予定で、市では一層の拡大に取り組む構えである。
 出荷量の増加ともに知名度アップも欠かせない。小矢部市では昨年、「稲葉牛」の名前の入ったステッカーを作成し、市農業祭のほか、昨年十二月の「大歳の市」でも特設コーナーを設けるなど売り込みに力を入れている。

小矢部市が地域ブランドとして拡大を図る稲葉牛=同市の稲葉山牧場

●「氷見牛」参考に
 小矢部市が参考にするのが「氷見牛」の取り組みである。氷見牛は市や農協、生産者の一体となった取り組みでブランド肉として定着した。市内の精肉店では「氷見牛コロッケ」が人気を呼んでいる。佐野さんは「稲葉牛も氷見牛のようになるとおもしろい。コロッケを活用するのも一つのアイデア」と夢を描く。稲葉牛は高岡コロッケと同じ発展途上の食材である。「幻の肉」から脱皮させるためにも連携していく余地は十分にある。

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