高岡コロッケ物語

高岡コロッケ物語(11)

第1部・浪漫あり
調理のこころ(下) 親から子、続く人気に喜び

手際よくコロッケを揚げる好美さん
揚げたてのコロッケを買い求める中学生=高岡市あわら町

 コロッケはやはり、揚げたてがうまい。高岡市あわら町の丸長精肉店にも夕方になると、部活動を終えた運動部の中学生が熱々のコロッケを買いにやってくる。近くの志貴野中の生徒たちである。
 店内は中学生でいっぱいになり、コロッケを揚げる油の音と生徒らの話し声で活気づく。主人の嶋林邦夫さん(71)は調理を家族に任せ、店の前の生徒らの自転車を整理する。「一般のお客さんが入れなくなり、迷惑をかけることもある」と話しながらも、表情は緩みっぱなしだ。
 嶋林さんと中学生のかかわりは三十年ほど前にさかのぼる。志貴野中では、当時まだ給食がなく、校内の売店でパンが売られていた。そこでコロッケを売る許可を得て、揚げたてのコロッケを販売し始めたのが三十年ほど前だった。
 弁当を持たせる家庭も多かったが、コロッケはパン食にも弁当にもよく合った。嶋林さんは「お母さん方に喜ばれ、よく売れた」と振り返る。志貴野中の給食導入は市内でも最も遅く、校内でのコロッケ販売は十五年ほど前まで続いた。

●そっくりの顔
 いま店に来るのは、そのころにコロッケを買ってくれた中学生の子どもたちの世代で、子どもたちの中に親そっくりの顔を見つけることもあるらしい。
 嶋林さんの店では、コロッケ以外の揚げ物も総菜として調理、販売している。奮発して鶏足の唐揚げやトンカツを買う生徒もいるが、やはり一番の売れ筋はコロッケだ。嶋林さんは「コロッケが嫌いな子どもは、まずいない」と開業以来四十年間の実感を強調する。

●揚げたて売る
 コロッケ作りは嶋林さんと妻の光子さん(69)、息子の健一さん(38)とその妻の好美さん(38)の四人で分担している。販売個数は一日二百個から三百個。現在はすべて、揚げたてを売っているが、これ以上多くなると、揚げ置きも必要になってくるという。揚げたてにこだわる嶋林さんならではの規模なのである。
 コロッケが注目され始めた昨年以降、嶋林さんの店はテレビなどの取材を受けることが多くなった。昨年九月には東京にある民放キー局の旅番組に取り上げられ、富山県出身の女優野際陽子さんと歌手の氷川きよしさんが店を訪れた。
 放送後、中学時代に嶋林さんの店のコロッケを食べたという人から電話をもらった。嶋林さんは「世代を超えて食べてもらえるのは何よりうれしい。最近はじいちゃん、ばあちゃんも食べてくれるようになった」と語る。四十年の店の歩みは、コロッケが暮らしに根付く過程と軌を一にしている。

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